大きなプロジェクトは変更できない

慣性の法則とリニア新幹線(2014.10.18)

 私の専門は物理です。高校生に教えていますが、授業の最初の方、力学という分野の中に「慣性の法則」という分野があります。物体は今現在の運動の状態を維持しようとする性質がある、というような説明をしています。

 しかし分かりにくい言葉です。要するに動いているものは動き続け、止まっているものは止まり続けるということですが、授業ではそこからさらに話しを発展させ、先ず具体例として、動いている電車が急ブレーキをかけると、中の乗客は動いている状態を維持しようとして前倒しになる、というような話しをします。

 また止まっている車が急発進すると、乗っていた人間は体がシートに押し付けられるように感じる、というようなことも説明します。

 それでも生徒が関心を示さない場合は、「イチロー選手が缶コーヒーを積み上げて、下から順番に手で取って行くコマーシャルがあるね」というと、ようやく少し関心を持つ生徒が出てきたりします。

 そこまで行けば授業は半分成功。次に切れやすい木綿糸に重いおもりをつけて、さらにその下に同じ切れやすい木綿糸をつけ、徐々に下に引っ張っていきます。当然引っ張る力とおもりの重さが加わり、おもりの上の糸が切れ、おもりは大きな音を立てて机の上に落ちますから、寝ていた生徒もびっくり。

 次にまた同じように糸とおもりをセットしますが、今度は下の糸を一気に引っ張ります。すると慣性の法則により、おもりは静止の状態を保とうとしてその場にとどまろうとするため、今度は下の糸が切れます。

 一気にに引いた方がおもりは落ちない、という事から、さらに慣性の法則の性質を詳しく説明していくのですが、当然ながら、この時おもりは重ければ重いほど動きにくいことになります。

(机の上に新聞紙を載せ、その上に水の入ったビーカーをのせ、新聞紙を生徒に引かせるということもやりました。結構スリルがあります)

 また逆に動いている重たいものを停めるには、相当の力が必要だということも話すのですが、これは何も物理の法則だけではないなという気がしています。

 ここからようやく本題ですが、リニア新幹線の着工が許可されました。何十兆円もかけて作り、飛行機と同じような時間で人を運ぶことが出来るわけですが、それが本当に必要なのか?

 なんかここまで準備してきた以上、その勢いでともかく作ってしまわないといけない、というような採算度外視、工事関係者だけが潤うという、これまでの日本の公共事業を象徴しているような話しだなと感じました。

 しつこいようですが、少子高齢化といわれる中で、リニア線が出来たとして、一体誰が利用するのか?非常時の場合の代替路線なんていう言い方もしているようですが、それを言い出したらきりがないような気もします。

 動き出したら止まらなくなってしまった巨大プロジェクトをいったいどうするのか?作ってみは見たものの費用ばかりが大きくなり、誰も利用しなかったら、一体誰が責任をとるのか?

 その費用を捻出するため、新幹線利用者は値上げを甘受しなければならないのか?それとも国が多少補填するという形をとり、それを税金で賄うのか?

 やっぱりうまくいきませんでした。多額の費用が必要となり、国の赤字が増えてしまったので税金を多くします、では済まされないような気がします。


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